| 「美味しい焼肉とキムチが食べた〜い!」という安易な理由で、旧正月(ソルナル、今年は1月23〜25日)が明けて間もない2月上旬、ソウルの金浦空港に降り立った。先入観からなのか、空港内はなんとなくキムチの香りが漂っているような気がする……。
ソウル市内観光、まずは景福宮(キョンボックン)へ。目的地に近づき、「ここからは、写真撮影禁止ですので、皆さん気を付けて下さい。」と添乗員さん。遥か向こう青い建物が見え、その周辺には巡回する警護員がいる。それは青瓦台(大統領官邸)で、以前はここを通ることさえ許されず、今でも昼間しか通ることができないらしい。軍事防衛上の理由で立ち入り禁止地域や写真撮影禁止になるところが、他にもある。遊びに来ているとはいえ、それぞれの国のマナーやタブーなことには気を付けなければならない。物々しい雰囲気に、急に少し緊張したが、まもなく景福宮へ到着した。1395年に完成した韓国王朝の王宮、残念ながらまだ復元工事の最中だったが、その門をくぐると、広々とした敷地、そこにはいくつもの殿閣、ハングル文字が生み出された建物や、ウォンのお札に印刷されている慶會樓などが立ち並んでいた。男性とチマチョゴリを着た女性が、何人かのカメラマン(撮影隊)を従えて、井戸や殿閣の階段などで、私の親の若い頃のような一昔前のポーズを取り、写真撮影している姿を目にした。結婚するカップルの『思いでのアルバム』の作成なのか、そのような光景を何組か目にしたが、どの女性も艶やかなチマチョゴリを身にまといとても綺麗だった。もちろん花嫁が一番綺麗なのは当たり前だけど、他にもあの化粧のりの良さには、何かある……。
そういえば何年か前に、日本でわりと売れた韓国人の歌手が、テレビ番組で『肌のきめが細かくて美しい』と褒められ、その秘訣は韓国エステにあると言い、それから、韓国エステが日本でも流行り出したそうだ。やっぱり、エステ効果大なのかしら? さっそく体験することに。韓国伝統の垢すりから現代の西洋エステまで、体験したいものがいろいろあったが、今回は地味目に、産毛取りをやってもらった。顔だけなのに、なぜかガウン姿になりメークを落とし、ベッドに横になり目を瞑る。プチンプチンと器用に糸を寄り合わせて産毛を取っていく。少し痛くて顔をゆがめてしまったが、5分もたたないうちに終了。それで、2万ウォン(約2000円)だ。友人と2人して鏡に向かって「どう? 変わったかな〜、うん、確かに毛がない。」これをやると、血行も良くなるからいいというのも、そこにいたエステのおばちゃんたちはみんな顔が照かるぐらいにつるつるしていたので、頷ける。
市内観光の後は女2人旅の楽しい時間の幕開けだ〜! と思いきや、ハングル語の街に翻弄された。日本とほとんど変わらない町並み、整備された道路、肌も髪の色も同じ人々、あれ、ソウルに来てるんだっけ? と一瞬疑うが、そんな気を全て打ち砕くかのような、ハングル文字の羅列が目に飛び込んでくる。なんと言っても困ったのが、漢字で書かれている地図では行きたい場所の見当がつかず、ハングルアレルギーにでもなるのではないかと思ったほどだ。街中には翻弄されたが、地下鉄や店などでは全然困らなかった。日本語が話せる人がわりと多く、日本人にもよく出くわし、親切な人にも助けられたからだ。地下鉄でのこと、私は初めて海外で乗る地下鉄が、どんなものかと楽しみだった。自動券売機ではコインでしか買うことができず、両替機を探してうろうろしていると、それを見ていた日本人が、窓口で行き先を告げればキップが買える事を教えてくれた。他にも行き先と逆のホームの改札をくぐってしまった時に、私たちが困っているのを見かね、現地のおじさんが日本語で話し掛けてきた。「どこ、行きたいの?」この改札をくぐるか、300メートルぐらい行かないと、反対側のホームへ渡れないことを詳しく教えてくれた。そして、駅員が改札を開けてくれ、通してくれた。親切な人たちでよかった〜。地下鉄は基本料金の600ウォン(約60円)で市内なら何処へでも基本料金でいける。安い、なんて安いんだろう! 電車に乗り込むや、キムチの香りが鼻をついた。車内の雰囲気に違和感はなく、うっかりうたた寝してしまうぐらいの安心感さえある。そんな地下鉄で『儒教』の教えを少し垣間見たことがあった。一つに年長者を敬うことである。3人がけのシルバーシートに若い男性が座っていたところに、歩き疲れていた私たちも座った。(お年寄りがきたら席をゆずればいいや……)しばらくして、中年の男性が乗車してくるのを見るなり、その若者はすぐに席を譲った。お互い何も言葉を交わさずに当たり前のように。老人でなくとも当然のごとく席を譲る。次に中年の夫婦が乗ってきて、私たちを見た。見えない圧力を感じる。すぐさま、席を譲ったのは言うまでもない。市内の移動にはタクシーも利用したが、昼間は地下鉄で15駅ぐらいの区間を走り、1,400円ぐらいだったので、割と安い。がしかし、夜間のタクシーにはくれぐれも注意した方がよい。雪が降り出し、終電も間近、やっと拾ったタクシーが『ついにきたか、ボッタクリタクシー!』であった。「夜だから、1人1,000円払ってもらいます。(注、地下鉄で2駅ぐらいの区間)」またハングルの街に投げ出され、寒空の下で路頭に迷うのは悲しいので、強気にでられず、悔しい思いをした。
韓国で一番満足したのはやっぱり、食事だ。全州名物『ビビムパプ(ビビンバ)』は料理の文化財に指定されているそうで、それを求めて、全州中央会館(チョンジュチュンアンフェグァン)へ入る。石焼ビビンバとカルビとビールを注文したら、テーブルの上にのりきらないくらいの料理が出てきた。小皿3つに、白菜キムチとカクテキと塩辛のようなものが盛られ、生野菜のサラダとポテトのサラダ、サンチュ、スープ、最後には口直しにリンゴまで出てきた。念願のキムチを口にする幸せの瞬間、うまい! 激辛ではないが、日本で食べるものとは違う。カルビも肉が柔らかく、たれが美味しい。石焼ビビンバはちょっとピリ辛で焦げ具合も程好い。食事が美味しいのは食材が違うからだろう。今回の旅のメインとも言えるプルコギ(韓国風すき焼き)が美味しいお店、三元ガーデン(サンウォンガードュン)は、友人曰く、それを食べるためだけにソウルへ行ってもいい! と豪語するほどの、絶品な味らしい。イメージトレーニングは完全に出来上がっていたのに、運悪くパーティーの為貸切で、私たちは入ることができず、しばし、ショックでうなだれたが、明洞餃子(ミョンドンキョジャ)の店に変更。水餃子とカルククス(鶏がらスープの麺)を注文した。勿論、キムチは頼まなくても出てくる、しかも、お代わりし放題。皿になくなれば、盛ってくれる。さっそく、キムチがテーブルに出され、真っ赤で、見るからに辛そうである。口に入れた。「ん? ん〜辛い、うっ、辛、辛い〜!」頭皮から汗が吹き出る感じで、水の入っているグラスに思わず、舌を冷やしてしまった。でも、辛いもん好きの私たちは、勿論お代わり! カルククスと激辛のキムチで冷えていた体も温まり、うなだれていた気分も少し和らいだ。キムチは店によって味が違い、さっぱり系から激辛まで、それぞれにどれも格別に美味しい。店以外にも、代表的な屋台料理の『トッポッキ』(餅米を固めたものに、甘辛の味噌をあえた餅料理)を食べたが、これまた美味い。
市場もやはりはずせない見所の一つだろう。南大門市場(ナムデムシジャン)と東大門市場(トムデムシジャン)があるが、今回はホテルから歩いていける南大門へ行ってみた。とにかく、種々雑多にいろんな物があり、皮革製品、アクセサリー、時計、生活雑貨など所狭しと並べられ、山積みになっている衣料品、食料品、店に呼び込むおじちゃんおばちゃんの声やら、スナック露店の匂い、ごった返す人、人、人、上野のアメ横が巨大化した感じで、とても活気に溢れていて、見ていて楽しかった。竹塩石鹸、歯磨き粉、そして気になっていた野菜パックを発見し、購入。辛ラーメン10個は店の人に値段交渉し、1個5円ずつ負けてもらうことに成功。友人は10個買い、後から私が8個下さいと言ったところ、「あなたも10個買っちゃいな〜。」と勝手に袋に詰め込まれ、ま〜いいかと流され、うまいこと買わされてしまった。まあ、こんなこともありだが、市場ではこんなふうに値段交渉ができるのが楽しい。ソウルは生活に必要最低限な(交通費や、食事)は安いと感じたが、他のものは日本とそう変わらないように思う。市場でもデパートでも地下通路の店でも、人が通る通路まで占領しそうな勢いで物が隙間なくびっしりと並べられ、そこを行き交う沢山の人々で活気に満ち溢れている。急激に経済発展を遂げた街中にも、朝鮮王朝時代の雅な部分も残し、そこに住む人々は現代の日本人が忘れかけている『人情』があり、対日感情が今だ複雑である中、私が出逢った人たちは笑顔で迎えてくれ、とても親切であった。
(2000年10月)
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